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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5857号 判決 1973年1月26日

原告(反訴被告) 土田五郎

右訴訟代理人弁護士 岡義順

同 村上精三

被告(反訴原告) 平林きん

<ほか六名>

右七名訴訟代理人弁護士 堀場直一

同 堀場直道

主文

原告(反訴被告)が別紙物件目録(一)記載の土地について、被告ら(反訴原告ら)に対し、存続期限昭和六五年二月一四日、賃料月額金三、六〇〇円との約定のある賃借権を有することを確認する。

被告ら(反訴原告ら)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴反訴を通じ、全部被告ら(反訴原告ら)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(反訴被告、以下単に原告という。)

1  本訴について(請求の趣旨)

本訴について、

主文第一項と同旨および本訴の訴訟費用は被告ら(反訴原告ら)の負担とするとの判決。

2  反訴について

主文第二項と同旨および反訴の訴訟費用は被告ら(反訴原告ら)の負担とするとの判決。

二  被告ら(反訴原告ら、以下単に被告らという。)

1  本訴について

原告の請求を棄却する。

本訴の訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

2  反訴について(反訴請求の趣旨)

原告は被告らに対し、別紙物件目録(二)記載の各建物(以下本件建物という。)を収去して、別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を明渡せ。

反訴の訴訟費用は原告の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  原告の請求原因

1 原告の先代訴外亡小森寅蔵(以下寅蔵という。)は、昭和一五年二月一四日、被告らの先代訴外亡平林米太郎(以下米太郎という。)からその所有の本件土地を建物所有の目的で期間の定めなく借り受けた。

なお、賃料については右借受当時のそれは明らかでないが、昭和二五年は年額六、八八七円二銭であり、以来数度の改定を経て昭和四二年一月以降は月額三、六〇〇円である。

2 米太郎は昭和二八年一〇月二三日死亡したので、同人の相続人である被告らが本件土地所有権を共同相続すると同時に寅蔵に対する賃借人たる地位を承継した。

3 寅蔵は昭和四二年四月六日死亡したので、同人の相続人である原告のほか訴外小森静、小森亀美、小森周郎、小森為郎、小森治郎および清村昭郎の六名(以下静ら六名という)において本件建物所有権および本件土地賃借権を共同相続した。

4 原告は昭和四四年一一月一七日右静ら六名から同人らが有する本件建物所有権および本件土地賃借権の共有持分の贈与をうけた。

5 右賃借権持分の譲渡につき地主たる被告らの承諾は得ていないが、それにも拘わらず、原告は被告らに対し、本件土地の単独賃借権をもって対抗し得る。即ち、原告は本来相続開始と同時に本件土地全体につき使用収益できる地位を取得したのであるが、ただ、その権能の範囲が持分の割合によって制限されていたに過ぎない。従って原告に対する本件贈与はこれを量的に拡大したに過ぎないのであって、賃借権の主体が質的に変動する場合と異なる訳である。このような場合は民法六一二条の適用はないものと解すべきである。

6 本件土地賃借権の存続期間は昭和四五年二月一四日満了となったが、原告は右満了時において本件建物を所有して、本件土地を継続して使用し、もって原告と被告らとの本件土地賃貸借関係は法律上更新された。

しかるに、被告らは原告の右賃借権を否定するので請求の趣旨記載の判決を求める。

二  被告らの認否

本訴請求原因1の事実は、そのうち、賃料についての約定の点を否認するほか、認める。ただし、原告主張の金員の支払を受けた事実は認める。2ないし4の事実はいずれも認める。5のうち、賃借権持分譲渡について被告らが承諾を与えていないことは認め、その余の主張は争い6の事実も争う。

三  被告らの抗弁

原告主張のとおり静ら六名は原告に対し本件土地賃借権の持分をそれぞれ譲渡するに際して被告らの承諾を得なかった。

そこで被告らは原告および右静ら六名に対し、右無断譲渡を理由として本件土地についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示を書面でなし、右書面は遅くとも昭和四六年七月二二日までに原告および静ら六名に到達した。

よって被告らと原告および静ら六名との間の本件土地賃貸借契約は解除によって終了した。

四  抗弁に対する原告の認否と反論

原告および静ら六名が被告らからその主張の契約解除の意思表示を受けたことは認める。

しかし、既に主張したとおり静ら六名から原告に対する賃借権持分の譲渡は民法六一二条の解除原因にならないから、右無断譲渡を理由とする被告らの契約解除は無効である。

(反訴について)

一  被告の請求原因

被告らが本件土地を共有し、原告外六名に対する賃貸人たる地位を承継したことの経緯、原告が本件建物の所有権および本件土地賃借権(ただし、賃料の額を除く)を静ら六名と共有していたところ、同人らからその持分の譲渡をうけた経緯は原告主張の本訴請求原因1ないし4のとおりである。

しかして、被告らは本訴抗弁として主張したとおり、静ら六名の持分無断譲渡を理由に原告および静ら六名に対して本件土地賃貸借契約を解除したから、被告らは原告に対し、本件土地の所有権に基づき本件建物を収去して本件土地の明渡を求める。

二  原告の認否と反論

契約解除の主張に対する認否と反論は本訴抗弁に対する認否と反論と同一である。

第三証拠≪省略≫

理由

一  本訴請求原因1の事実は、賃料の点を除いて当事者間に争いがなく、同2ないし4の事実も当事者間に争いがない。

そして、静ら六名が原告に対し、本件土地賃借権の準共有持分を譲渡するについて地主である被告らの承諾を得ていないことは原告の自認するところである。

ところで、およそ賃貸人の承諾なくして賃借権を譲り受けた者は右賃借権をもって賃貸人に対抗し得ないのを原則とするが、本件の如く賃借人の共同相続人の一人が他の共同相続人から、相続にかかる賃借権の準共有持分の譲渡を受けた場合には、その譲渡につき賃貸人の承諾がなくとも、右譲受をもって賃貸人に対抗し得るものと解するのが相当である。なぜなら、譲受人たる原告も元来賃借権の準共有者の一人として本件土地を使用し得たのであって、他の者からの持分譲受により、自己の持分が量的に拡大したに過ぎず、新たに本件土地の使用関係に加わってきたものではないから、右譲渡は賃貸人と賃借人間信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるというべきで、譲渡人に対し賃貸人からする民法六一二条の契約解除の原因にはならず、この場合右譲渡は賃貸人の承諾ある場合と同一に取扱うのを相当とするからである。

そして、原告先代寅蔵と被告から先代米太郎との間の当初の本件土地賃貸借契約において期間の定めがなかったことは前記のとおりであるから、借地法三条、二条一項によって三〇年とされ、結局原告の本件土地賃借権は昭和四五年二月一四日満了となったが、原告は右満了時において本件建物を所有して、本件土地を継続して使用していたこと弁論の全趣旨に照して明らかであるから、右賃借権は前契約と同一の条件をもって法律上更新されたものというべきである。そしてその存続期間は借地法六条一項、五条一項により更新の時から二〇年間とされるから、終期は昭和六五年二月一四日であること明らかである。つぎに、≪証拠省略≫によると、被告らは少なくとも昭和四一年一二月分の賃料として月額三、六〇〇円を寅蔵代理人菅原周子から受取っていることが認められ、その後改定された旨の主張、立証はないから、現在なお右金額をもって賃料と認めるべきである。

二  すすんで被告らの契約解除の主張について判断する。

被告らがその主張のとおり原告および静ら六名に対し賃借権持分の無断譲渡を理由として賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

ところで原告は静ら六名から持分の譲渡を受けた者であって自己の持分を他に譲渡したわけではないから、静ら六名の原告に対する持分の無断譲渡を理由に被告らが原告に対してした契約解除は失当であり、無効であるこというまでもない。

つぎに、静ら六名の原告に対する持分譲渡は賃貸人たる被告らとの間の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるから、民法六一二条の解除原因に当らないと解するのが相当であること前記のとおりであるから、右無断譲渡を理由として被告らが静らに対してした契約解除もまた無効というべきである。

三  以上の次第で、原告は本件土地につき被告らに対し、存続期限昭和六五年二月一四日、賃料月額三、六〇〇円との約定による賃借権を有するから、その確認を求める本訴請求は理由があり、これを認容すべきであるが、被告らの反訴請求は失当として棄却すべきであり、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条により、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤安弘)

<以下省略>

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